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リウマチ・膠原病

全身性エリテマトーデス

概念

全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Eryhtematosus)は、その英語の頭文字をとってSLEと呼ばれます。Systemicとは全身性のという意味で、lupus erythematosusとは皮疹が狼(lupusはラテン語で狼の意味)に噛まれた痕のような紅斑であることから名付けられました。SLEは自分の体の成分と反応してしまう抗体(自己抗体)ができて、これが全身のさまざまな臓器を障害するためにおこる病気です。多くの臓器がターゲットとなるため、症状も多彩となり、発熱・全身倦怠感などの炎症による症状と、関節炎・皮疹(蝶形紅斑や円板状紅斑)・精神神経症状・腎障害・心臓や肺の病変・血液検査の異常などがみられます。 さまざまな症状が一度に、あるいは次々に起りながら、よくなったり悪くなったりを繰り返し、慢性の経過を示します。日本では約5万人の患者さんがいると考えられています。特に20-30代の若い女性に多く、男女比は1:9-10です。SLEは世界各地で認められる疾患ですが、黒人とアジア系の人に最も多く発症するとされ人種差があります。日本においての地域差は見られません。

原因は?

SLEの原因はまだよくわかっていません。一つの原因によるものではなく、複数の遺伝的要因が関与し、さらに何らかのきっかけ(感染症〈風邪などのウイルス感染〉紫外線〈海水浴、日光浴、スキー〉、ある種の薬剤、女性に圧倒的に多いことから女性ホルモンの関与)が加わって、免疫のバランスが崩れることでSLEを発症すると推測されています。免疫とは、自分を細菌やウイルスなどから守ってくれる大切な役割をしているものですが、SLEでは、自己免疫といって免疫力が自分の体を攻撃するようになり、全身にさまざまな炎症を引き起こします。自分自身の体に対する免疫は、血液中の抗体を調べることによって判断できます。この病気の患者さんの95%以上が、血液中に抗核抗体をもっています。自分自身の細胞のなかにある核と反応してしまう抗体で、さらに免疫複合体という物質を作って、全身の皮膚、関節、血管、腎臓などにたまって病気が引き起こされると考えられています。このほか、免疫を司るリンパ球も直接、自分の細胞、組織 を攻撃すると考えられています。厚生労働省では、原因がわかっていない難病とされるいくつかの病気について、国の事業として年1回の調査を行い、医療費の補助を行っています。そのような調査の対象になっている病気のことを「特定疾患」と呼んでおり、SLEも特定疾患の1つとなっています。

どのような症状が出ますか?

SLEを発症すると発熱、全身倦怠感、疲労感、食欲不振、体重減少などの全身症状が出ます。また、皮膚や関節の症状はほとんどの患者さんに現れます。症状は人によって大きく異なりますが、急性の感染症のように突然の発熱によって発症することもあれば、微熱や体調がすぐれないといった症状で、数カ月かけて少しずつ進行していくこともあります。いずれの症状も消失したり出現したりを繰り返します。多くの女性は、月経が始まると症状が消失し、月経周期の後半に再び症状が現れます。閉経後の女性の再燃はあまりみられません。

現在では早期の診断が可能となり、有効な治療法が確立されてきたためSLEの予後はこの30年で著しく改善されました。しかし、経過の予測は困難で、実にさまざまな経過を取ります。一般的には、初期の炎症コントロールが良好であれば、長期にわたる経過の見通しも良好とされています。

皮膚・粘膜の症状

鼻から頬にかけて蝶が羽を広げた形に似ている皮疹(蝶型紅斑)が特徴的です。また、やや隆起した皮疹、皮膚が薄くなった皮疹、顔や首・耳・前胸部・肘などに中心の色素が抜けたコインのようになるディスコイド疹もみられます。強い紫外線を受けたあとに皮疹、水ぶくれができ、発熱を伴うこともあり、40%でみられます(日光過敏)。ます。また、手のひら、手指、足の裏にできる、しもやけ様の皮疹も特徴的な症状です。口腔内粘膜(特に口の奥、頬の内側、歯肉)や鼻咽腔に痛みのない浅い潰瘍ができることがあります。

関節の症状

約90%の人に、手や指が腫れて、痛みを伴う関節炎が起こします。肘、膝などの大きな関節に、日によって場所が変わる移動性の関節炎が見られることもあります。とくに、関節炎で発病する場合には、関節リウマチ(RA)と間違えられることもありますが、SLEではRAと異なって骨の破壊を伴うことはほとんどありません。稀に関節症状が長期にわたり持続すると、関節の変形(ジャクー関節症)も起こります。

腎臓の症状

腎臓の障害には、軽微でまったく症状がない場合もあれば、確実に進行して致死的となる場合もあります。腎障害では急性期に蛋白尿がみられ、尿沈渣では赤血球、白血球、円柱などが多数出現(テレスコープ沈渣)するのが特徴です。糸球体腎炎(ループス腎炎)と呼ばれる腎臓の障害は約半数に現れ、放っておくと重篤となり、ネフローゼ症候群や腎不全に進行して透析が必要になり、命にかかわることもあります。

中枢神経の症状

中枢神経症状(中枢神経ループス)もループス腎炎と並んで、SLEの重篤な症状です。多彩な精神神経症状がみられますが、なかでも、うつ状態・失見当識・妄想などの精神症状と片頭痛、てんかん発作、けいれん、脳血管障害が多くみられます。

心肺病変の症状

心臓や肺では、心膜の炎症(心膜炎)による胸痛は比較的多く、漿膜炎(心外膜炎や胸膜炎)の合併は約20%に起こります。胸膜の炎症によるものでは、胸膜内の水分の貯留による場合とそうでない場合とがあります。肺機能がわずかに障害を受けることはよくあります。肺の炎症(ループス肺炎)や、致死的な肺の出血(肺胞出血)、肺高血圧症などの難治性病態も稀に認めます。

消化器の症状

腹痛や吐き気がみられる場合には、腸間膜の血管炎やループス腹膜炎、ループス膀胱炎に注意が必要です。

造血器の症状

貧血、白血球減少、リンパ球減少、血小板減少などの血液の異常もよくみられます。また、抗リン脂質抗体という抗体がある場合は、習慣性流早産、血栓症、血小板減少に基づく出血症状などの症状を伴い、これを抗リン脂質抗体症候群と呼んでいます。

どのような検査がありますか?

一般的な検査としては、血沈(赤血球沈降速度)、尿、血液検査、胸部X線、心電図などが必要です。血清検査では、免疫グロブリン、補体、抗核抗体、抗DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループス抗凝血素、梅毒血清反応生物学的擬陽性)といった自己抗体の検査が重要です。抗核抗体が検出された場合は二本鎖DNAに対する自己抗体も検査します。尿検査では尿中にタンパク質や赤血球が認められ、血液中のクレアチニン濃度が上昇するなど、腎障害を示す所見がないか調べます。以後の治療計画を立てるために腎生検が必要なこともあります。

SLEの診断は、1982年のアメリカリウマチ協会の「改訂基準」(1997年に改変)に照らして行われます。特に若い女性では、その症状と診察所見からSLEを疑います。しかし、症状が多彩なため、初期の段階では類似した他の病気との判別は困難なこともあります。SLEの診断は、症状や血液、尿、レントゲン検査などから総合的に判断しますが、専門医のもとで総合的に診断することが重要です。

治療法は?

治療の中心は、免疫のはたらきを抑え、炎症を抑えることです。そのため第一選択薬は副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)です。効果不十分の場合は、ステロイドパルス療法や免疫抑制薬の併用が行われます。こうした治療により、現在SLE全体としての5年生存率は95%を超えています。死因で多いのは感染症、腎不全、中枢神経障害です。治療に際しては、一人ひとりの重症度、疾患活動性を十分に考慮したうえで、薬の種類や量を決定します。一般的にステロイドは、重症の場合はプレドニゾロンを1日60mg、中等症~軽症の場合は1日20~40mgから開始します。

ステロイドによって症状が軽快し、検査データも改善したら減量を開始しますが、急激な減量は再燃を招く危険があるため、慎重にゆっくりと行います。目安としては、2-4週間ごとに投与量の10%を超えない範囲で減量します。最終的には、プレドニゾロンで1日5mg程度を長期間にわたって使用し続ける必要があります。免疫抑制薬の併用により、さらにその維持量を減量しようとする試みもなされています。初回投与量で効果不十分の場合、または減量中に再燃した場合はステロイドを増量します。それでも効果不十分な場合は、ステロイドのパルス療法や免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル1日1000-2000 mg、アザチオプリン1日50-100 mg)を併用します。とくに、WHO分類のIII型、IV型のループス腎炎に対しては、シクロホスファミドの点滴静注(シクロホスファミドパルス療法)が長期予後の面からも有用性が高いことが証明されています。ただしシクロホスファミドの副作用として無月経(生殖器障害)があるので、適応を慎重に判断する必要があります。近年では、免疫抑制薬としてミコフェノール酸モフェチルの有用性がシクロホスファミドパルス療法と同等以上であることが判明し、生殖器障害がないことから使用することが増えています。また、ミコフェノール酸モフェチルとタクロリムスを併用すると、シクロホスファミドパルス療法より有用であることが示されています。

ステロイドの副作用には、満月様顔貌、消化性潰瘍、糖尿病、感染症、骨粗鬆症などがあります。とくに、ステロイドの内服量が多い間は、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染に十分気をつける必要があります。骨粗鬆症はほぼ必発で、プレドニゾロン1日5mgであっても進行するため、活性型ビタミンD製剤やビスフォスホネート製剤などを予防内服することが必要です。また、SLE患者さんの血液が固まりやすい傾向をもっている場合は、低用量のアスピリンを使用します(アスピリンは血小板の凝集を抑え、血栓形成傾向を抑制します)。

SLEのかた全員にヒドロキシクロロキンが勧められます。特に皮膚病変、関節病変をもつSLEの方にはヒドロキシクロロキンが使用されています。ヒドロキシクロロキンの詳細については、別頁をご覧下さい。

生活の上での注意点は何でしょうか?

SLEは慢性の経過で、病状が悪くなったり良くなったりを繰り返す特徴があります。長期に安定した状態(寛解)を維持することが治療の目標です。再燃するきっかけとして多いものは、日光は寒冷への暴露(海水浴・日光浴・スキー)、風邪などの感染症、妊娠、外傷、手術、薬剤アレルギー、治療薬を医師の指示通りに服用しないことなどが挙げられます。薬を指示通りに内服し、風邪などひかない健康的な生活を行うことが生活上の注意点です。また、副腎皮質ステロイドは食欲を増してしまいます。食事の内容と量に注意し、適切な食生活を送るようにしてください。

SLE患者さんにとって手術や妊娠は複雑な問題であり、十分な医学的管理が必要です。流産や分娩後の再発はよくみられますが、病状が落ち着いた後の妊娠であれば問題はありません。プレドニゾロンを1日15mg以下でSLEの疾患活動性がコントロールされていれば、妊娠・出産が可能です。しかし、分娩後に増悪することが多いので、分娩時よりステロイドを一時的に増量することがあります。手術が必要な場合も、分娩と同様にステロイドを一時的に増量する必要があります。

感染症を起こした場合でも、決してステロイドを中止してはいけません。これは、長期間にわたるステロイドの内服により副腎皮質のストレス反応が十分に起きにくくなっているためです。そのためステロイドを中止すると副腎不全を起こしてショック状態になる危険があります。緊急の災害時にはステロイドを一緒にもって避難できるように、普段から少し余分に持っておいたほうがいいでしょう。

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