ヒドロキシクロロキン(プラケニル®)
まとめ
- ヒドロキシクロロキンは全身性エリテマトーデスや他の膠原病の皮膚症状、関節症状をはじめとしてさまざまな病態の治療に用いられます。
- ヒドロキシクロロキンは単独で比較的活動性の低い関節リウマチに対して用いられます。または他の抗リウマチ薬とともに活動性の高い関節リウマチに対して用いられます(本邦健康保険適応外)。
- ヒドロキシクロロキンは比較的安全な薬ですが、副作用の早期発見のため眼科医による定期的な検査が必要です。
このお薬は何のために使われますか?
ヒドロキシクロロキン(Hydroxychlorquine, HCQ, プラケニル®)は抗マラリア薬であり、マラリアの治療や予防のために用いられています。ヒドロキシクロロキンはまた、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚エリテマトーデス、関節リウマチ、小児リウマチ、その他の膠原病の病状を改善するためにも用いられます。
どのようなメカニズムで効くのですか?
ヒドロキシクロロキンがどのような機序で自己免疫疾患に効果を発揮するかの全体像は明らかではありません。現時点では、免疫系の活性化をもたらす免疫細胞同士の連絡を阻害していると考えられています。
内服の方法は?
一般に、ヒドロキシクロロキンは成人では一日あたり200-400mg用いられます。身長により用量が決まります。
効果発現までの期間
症状改善は内服開始後1-2ヶ月で出始めることが多く、最大効果発現には6ヶ月かかることもあります。
副作用
ヒドロキシクロロキンは通常非常に副作用の少ない薬で、重大な副作用は少ないです。最も良く認められる副作用は吐き気と下痢ですが、内服しているうちに改善することも多く、またヒドロキシクロロキンを食事と一緒に摂ることで改善することもあります。ときには筋力の低下、皮疹、皮膚色素沈着、毛髪の色の変化や毛髪が細くなることも認められます。まれには貧血が出現することがあります。
まれに、ヒドロキシクロロキンにより視力の低下や失明が起こりうることが報告されています。このような副作用は、高用量を長期間、内服し続けている方、60才以上の方、著しい腎障害をお持ちの方におこりやすいことが知られています。現在使われている用量は以前関節炎やマラリアに使われていた量よりずっと少なく、このような視力に関連した障害の発生は非常にまれであることが分かっています。
覚えておいていただきたいこと
ヒドロキシクロロキンによる視力の低下や失明は非常にまれにしかおこらない副作用ではありますが、もし見え方に変化が起きたときにはすぐに担当に医師にお知らせください。この薬を処方していただいている医師は定期的な眼科での検診を指示するでしょうから、それに従ってください。患者さん自身で気づいた、もしくは定期検診で見つかった早期の視力障害は、通常お薬の中止により改善することが知られています。
もしあなたが妊娠を希望しているのであれば、担当医師とこのお薬を内服するべきかについてお話しください。ヒドロキシクロロキンは妊娠中でも安全に使える薬として知られていますが、妊娠中に内服する薬についてはどのようなものであっても担当医とその可否について議論しておくべきです。
お薬の相互作用について
ヒドロキシクロロキンとのみ併せの悪いお薬はあまりありませんが、安全のために薬局で購入した薬やハーブなどであっても担当医師に伝えておくべきです。
かかりつけ医や他科の医師にかかるときには
このお薬を内服中であることを必ず告げましょう。ヒドロキシクロロキンには強い免疫抑制作用はないため、ふつうワクチン接種において問題になることはありません。眼科にかかるときには、適切な検査をしてもらうためにも、このお薬を内服していることを担当医に知らせましょう。
ヒドロキシクロロキン及び類薬のクロロキンの市販後に認められた主な副作用
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分類 | 事象名 | 頻度* |
---|---|---|
一般 | 悪心、腹部仙痛、腹部膨満感、下痢、胃酸逆流(食道)、集中力障害 、睡眠障害 | 1-10% |
眼 | 不可逆網膜症 | 0.01-0.1% |
角膜沈着物 | クロロキン:<1-10% ヒドロキシクロロキン:<0.1-1% |
|
調節障害 | <0.01-0.001% | |
毛髪 | 毛髪変色、脱毛 | <0.01-0.1% |
中枢神経 | 睡眠障害、錯乱、浮動性めまい 、頭痛、錯感覚 /異常感覚、傾眠状態、疲労、不安 | <0.1-1% |
精神病、てんかん発作 | <0.01% | |
耳 | 難聴、耳鳴 | <0.1-0.01% |
皮膚 | 皮膚色素過剰 | 頻度不明 |
皮疹、剥脱性反応 | 頻度不明 | |
光毒性/アレルギー反応 | 頻度不明 | |
そう痒症 | 頻度不明 | |
色素過剰 | 頻度不明 | |
運動機能 | 筋障害/ 神経筋障害 | <0.01-0.1% |
心血管 | T波平低、伝導障害 | <0.1-1% |
肝胆道 | トランスアミラーゼの上昇 | <0.01-0.1% |
血液リンパ | 汎血球減少症、無顆粒球症、血小板減少症 | <0.01-0.1% |
代謝 | ポルフィリン症の悪化 | 頻度不明 |
*:頻度については、ヒドロキシクロロキンとクロロキンとを分けて集計されていない(角膜沈着物を除く)。
Ochsendorf FR. Use of antimalarials in dermatology. J Dtsch Dermatol Ges. 2010; 8: 829-44. より改変
重要: SLEでヒドロキシクロロキンはなぜアンカードラッグと言われているのか?
- 疾患活動性増悪の防止 Canadian Hydroxychloroquine Study Group. NEJM 1991; 324: 150-4
- 臓器障害の軽減 Fessler BJ, et al. Arthritis Rheum. 2005; 52: 1473-80
- 血清脂質の改善 Wallace DJ, et al. Am J Med. 1990; 89: 322-6
- 血栓症予防 Pierangeli SS, et al. Lupus. 1996; 5: 451
- 生命予後の改善 Ruiz-Irastorza G, et al. Lupus. 2005; 14: 220
- ミコフェノール酸(MMF)の有効性増強 Kasitanon N, et al. Lupus. 2006; 15: 366