科長挨拶

 

北沢 貴利

感染症は、近年診療に対する認識が大きく変化した領域の一つである。従来の微生物学に偏りがちであった古典的な感染症学から、病理学、薬理学、診断学などを統合した最新の感染症学は、感染症の診療を「過去の医療」という位置づけから、医療界そして社会全体にとっても、主要な医療分野の一つであるという再認識をさせた。海外での臨床経験者がもたらしたグローバル化された診療スタイルは、診断の推論過程や治療設定に明快さを与え、感染症診療に魅力を抱いて専門とする医師の数は徐々に増えている。しかし、感染症を取り巻く医療環境は全てにおいて好転したわけではない。耐性菌の脅威は少しも薄まらず、抗菌薬の開発の停滞が叫ばれて久しい。日常診療でも我々の先輩達の世代から受け継がれた診断手法に頼らざるを得ない場面があるのも事実である。医療界全体で技術革新が加速度的に進む中で、感染症領域で取り組まなければならない課題もまだまだ多い。

帝京大学感染症内科が扱っている症例は、高齢者を中心とする市中・医療介護関連の感染症であり、免疫不全者と背景とする院内感染症であり、HIV感染症であり、渡航者の感染症である。他の大学病院、基幹的市中病院と同様、外来患者として、入院患者として、あるいはコンサルテーションとして、日常診療に携わっている。ただ我々は臨床経験を単純に積み上げるだけでなく、経験を通じて湧き上がる疑問に目をそらさずに、臨床課題として昇華し、基礎研究や疫学研究を通じて、得られた成果を社会に還元できる存在になりたいと考えている。

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